「――元みたいには、ミーチャ、もうなれないよ。……ミーチャ。私はワーリャに父さんを持たしてやりたい。そりゃお前さんに真直ぐ云うよ。……だがあれもいい子になって来た。」
輝いた、たのしそうな微笑がグラフィーラの口元に漂った。
「――そして私も独りもんじゃ暮したくない。でもね、ミーチャ、私は馬鹿で、あんたには追いつかないけれど、でもそんな風に暮しをごちゃごちゃにこわしたくない。
ありどおりお前さんに云うよ、ね、私は先のような私じゃないんです。元は、ほんとにあんたといることばっかり考えてた。そのためにばっかり生きて、ごたごた仕事に追い立てられていた。ところが今ではこういうようになって来た。……私と暮す――それもいい。私と暮さない……それがどう? 私には自分の道がある。すべて元通りに? いいえ、タワーリシチ、ミートシカ! 川は逆に流れない、私は元の私にはなれないんです。」
この前、インガとドミトリーとグラフィーラの三人が落ち合ったとき、グラフィーラが、今日はと云ってインガに手をさし出した。そうしたら、インガは、ここでは握手しないことになってますからと云って断った。
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