った。
彼等は前にも一度、偶然落ち合ったことがあった。その時ドミトリーは云った。お前と暮していた方が楽だったよと。グラフィーラは、ひどく驚いた。が、二人で暫く話して見てもっとびっくりしたのはドミトリーだった。彼の知っていた筈のグラフィーラはどこへ行った? おじおじした狭い暗い女の代りに、彼の前に立っているのは、経験によって育った、活々した一人の独立した婦人労働者だ。その時、グラフィーラは云った。
「時間を与えとくれ、ミーチュシカ、私たちはお前さんのインガのようじゃない、もっとよくなるよ。少しずつ、少しずつ、ものになって行くのさ。私たちの骨はあのひとよか太いんだから、もっと強くなるさ。」
ニコニコして、グラフィーラはそう云った!
「総てを元どおりにしよう!」
インガとの生活に失敗したことを感じているドミトリーは、とびつくように、また出会ったグラフィーラに向って云った。
「ワーリカとあんたとは俺にとってたった一つの、ほんものの血縁だ。」
初めてあなたと呼ばれたグラフィーラは、抑えきれない亢奮で頬っぺたを赤くしたが、答えはドミトリーが期待したものとは違った。しずかに彼女は云った。
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