だろうねえ。あの女が私よりも綺麗なら綺麗でいい、いい女ならいい女でいいよ。だからって、どうしてワーリカが不仕合わせにならなけりゃならないんだ。私の怨みは忘れても、そればっかりは勘弁出来ない!」
 ドミトリーに見つからないようにかくしておいた聖母像までもち出して、グラフィーラは拝もうとした。が結局こんな絵が何のたしになる!
「ひょっとしたら、これでミーチャは私に愛想をつかしたんじゃないだろうか? おがんでいるのを見たんじゃないだろうか。ああナースチャ! 私、どうしていいかわからないよ!」
 そこへ、酔ったボルティーコフがよろけこんで騒動をおっぱじめたのであった。
 グラフィーラは、涙を前かけでふいた。ボルティーコフ夫婦とお喋り女を追っぱらってやっと椅子へ坐り込んだドミトリーに、彼女はおずおず訊いた。
「ミーテンカ……夕御飯の仕度しようか?」
「――いらない。」
「お茶?……じゃあ。」
「何も欲しくない。……はっきり云ったじゃないか!……どこもかしこもガラクタだらけだ。きたない……掃くひまもなかったのか? フ!」
 ドミトリーはこの頃見えはじめた自分の家庭の内の文化の低さに我慢出来ないよう
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