ー声で喰ってかかった。
「タワーリシチ・グレチャニコフ! 住宅管理代表として、こんな醜態は以後注意して下さらなくちゃ困りますわね。宅にはお客様があるんですよ。宅はへとへとになって帰って来たのに、ここじゃドッタン、バッタン! 休めやしない! こんなことだと分ってりゃ引越してなんぞ来なかったんです。」
 流行もなにもないぼってりした恰好で、後れ毛を頬にたらした無学なおとなしいグラフィーラは、自分達の家庭へ他人があばれ込むのも制御出来ない。而も、彼女は今辛い心持をやっと押えているのであった。さっきアイロンをかけるためにドミトリーの上着をふるったら、一枚紙きれが落ちた。何心なくひろって見たら、どうだろう、それはインガからドミトリーへあてた呼び出しであった。
 ああ、この頃のドミトリーの変りようはどうだろう。元は、何でも話し一緒に笑いした彼が、まるであかの他人みたいな目つきで自分を見る。黙っている。その原因が、ここにあった。グラフィーラは泣きながら、ナースチャに訴えていたところであった。
「私はミーチャなしじゃ生きていかれないよ。……誰にやるもんか。ねえ、何のためにこの子までを不仕合わせにするん
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