設は、果して成りゆきによってその方針を決定され、進展されているような受動的なものであるであろうか? それは全然反対だ。
 ドミトリーは遂に決心した。
「よし!」
 インガは息をころしたが、ドミトリーは呻いて一つところを低徊した。
「奴等をすてることは俺にゃ出来ない!」

          三

 ドミトリーは悪い時に家に帰って来た。
 沢山の洗濯物が部屋の天井からぶら下り、赤坊の揺り籠が隅においてある。そういうドミトリーの室では、遊びに来て喋り込んでいた女房を追いかけて、例のボルティーコフがあばれ込んで来ているところであった。
「畜生! 上向けば女! 見下しゃ女! あっち向きゃ女! ここでまで女だ! えい、畜生! サモワールを俺さまが立てるてえのか? 俺あ貴様の何だ? 犬か? 亭主か?」
 そして、たった四十だのにもう干物みたいになって終っているナースチャを、ボルティーコフは擲る。引ずりまわす。
 一日中寝巻姿でゾロリとしている技師ニェムツェウィッチの女房が、騒動をききつけてドアから鼻をつっこみ、それを鎮めるどころか、折から書類入鞄を抱えてとび込んで来たドミトリーを見るや否や、キーキ
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