心或は農産品仲買関係者が、米や繭の売買で幾分かは儲けてラジオでも引こうかという工合になっていることが推察されるのである。
 日本全国のラジオ聴取加入分布図というのを見ると、地方の経済事情がどれほど文化に影響しているかが瞭然としていて、心に迫って来るものがある。東京、大阪が最も密度濃いのは当然として、百世帯加入数辛うじて六以下という、ブランクによって示されている地方は、日本に於て、東北では青森、岩手の二県と、九州の突端の二つの県宮崎、鹿児島、琉球等のみである。
 工業部門の職業でのラジオ加入は、昭和十一年間に僅か〇・八%の増大を示すのみであるのも、なかなか深い暗示を含んでいる数字であると思う。何故なら景気がよい、就業率は上向きだと云っても、工場に働いている人々の賃銀の上昇には残業割増、歩増などの時間外労働強化がついているのであるし、小売物価の急激な騰貴は結局、いくらかましな工場労働者の賃金をも今日では凌いでしまっている。実質賃銀を小売物価との関係で見ると、昭和十二年の春は前年同期に比べてマイナスの二%九である。こうして見ると、軍需工業の景気の呼声が高い割に、この職業別でラジオ増大率の低い
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