ても、更に返事さえも無いのであった。それから助力を借りて、扉《ドア》を無理に押し開いてみると、果然! この不幸な青年は、テーブルの近くに斃れているのであった。彼の頭は連発式拳銃の、拡大した弾丸で、見るも無惨に打ち砕かれているが、しかし兇器と云うべきものは、室の中に一物も遺留されてはいなかった。そしてテーブルの上には、十|磅《ポンド》の紙幣二枚と、金銀貨併せて十七|磅《ポンド》十|志《シルリング》の金が、それぞれ違った額に整頓されて、小さな堆《やま》に積まれてある。それから紙片の上には、数字と倶楽部の名と友人の名を封書したものがあったが、これから推測してみると、彼は死の直前までは、骨牌の損益を計算していたに相違ないと思われるのであった。
 これだけをちょっと見ただけでは、ただますます事態が不可解になるばかりであった。まず第一に、何のためにこの青年が、内側から扉《ドア》に鍵をかけたのかと云うことが、はなはだ解釈に苦しむ疑問である。もっとも犯人が兇行後、鍵を下して窓から遁《に》げ去ると云うことは、考えられることではあるが、しかし窓の高さは少なくとも二十|呎《フィート》はあったし、かつその下に
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