かで、決して激情的な若者ではなかった。こうしたごく平凡な無難な生活をしている貴族の青年に、全く突然に、奇怪極まる死が襲いかかったと云うのであるから、全く不可思議千万であったのである。この不可解な兇行は、一八九四年三月三十日の夜の、十時から十一時二十分までの間に行われたのであった。
 ロナルド・アデイアは元来、骨牌《かるた》は好きでよくやっていたが、しかしと云っても、その賭け事のために、身の破滅を招くと云うほどのこととも思われなかった。彼はボールドウィン、キャバンディッシュ、バカテルと云う骨牌倶楽部《かるたくらぶ》の会員であったが、彼は惨殺される当日は、昼食後バカテル倶楽部で、ホイストの勝負をやっていたと云うことがわかっている。そして引き続き午後一ぱいは、このバカテル倶楽部で過したのであった。そして当日の相手としては、マーレー氏ジョン・ハーディ氏、モラン大佐で、賭け事は一貫してホイストで、勝負は実によく伯仲したと云うことも明瞭になっている。それでも結局はアデイアは五|磅《ポンド》くらいは敗《ま》けになったろうか、――しかし彼は元来相当の財産を持っていたので、こんな敗けくらいは彼にとっては
前へ 次へ
全53ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング