――横痃かも知れねえ。弱り目に祟り目だ。悪い時ゃ何もかも悪いんだ。どうなったって構やしない。――
「その代りなあ、淋しい死に方はしやしないからな」
 私は、ほつれた行李の柳を引き千切って、運河へ放り込みながら、そう云った。
「おい! そんな自棄を云うもんじゃないよ。それよりも、おとなしく『合意雇止め』にしてやるから、ボーレンで一ヵ月も休んで、傷を癒してから後の事は、又俺でも世話をしてやるからな。お前見たいな風に出ちゃ損だよ。長いものには巻かれろってことがあるだろう。な、お前がいくら頑張ったって、船長も云ったように、一億円の船会社にゃ、勝てっこないんだから」
 セコンドメイトは、デッキの上と橋板の上とでは、レコードの両面見たいに、あべこべの事を云い始めた。詰らない事を云って、自分が疳癪玉の目標になっては、浮ばれないと思いついたのだ。
「セキメイツ。長いものが、長いものの癖をして、巻かねえんだよ。巻かれた奴あ、ギュッと巻き締められて、息の根を止められちまわあな。ボーイ長(水夫見習)を見な。奴あ泣寝入りと云いたいんだが、泣寝入り処じゃねえや、泣き死にに死んじゃったじゃねえか。ヘッ、毛も生
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