と五分だ。松葉杖ついたって、ぶっ衝って見せるからな」
 松葉杖! 私はその時だってほんとうは、松葉杖を突いてでなければ、歩けないほどに足が痛く、傷の内部は化膿していたのだ。
 私は、その役にも立たない、腐った古行李をもう担いで歩くのが、迚も重くて、足に対して堪えられない拷問になって来た。
 道は上げ潮の運河の上の橋にかかっていた。私は橋の上に、行李を下してその上に腰をかけた。
 運河には浚渫船《しゅんせつせん》が腰を据えていた。浚渫船のデッキには、石油缶の七輪から石炭の煙が、いきなり風に吹き飛ばされて、下の方の穴からペロペロ、赤い焔が舌なめずりをして、飯の炊かれるのを待っていた。
 団扇《うちわ》のような胴船が、浚渫船の横っ腹へ、眠りこけていた。
 私は両手で顎をつっかって、運河の水を眺めていた。木の切れっ端や、古俵などが潮に乗って海から川の方へ逆流して行った。
 セコンドメイトは、私と並んで、私が何を眺めているか検査でもするように、私の視線を追っかけていた。
 私は左の股に手をやって、傷から来た淋巴腺の腫れをそうっと撫でた。まるで横痃《よこね》ででもあるかのように、そいつは痛かった。
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