浚渫船
葉山嘉樹
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蝶番《ちょうつがい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]――一九二六、七、一〇――
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私は行李を一つ担いでいた。
その行李の中には、死んだ人間の臓腑のように、「もう役に立たない」ものが、詰っていた。
ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まった、表紙と本文の半分以上取れた英訳本。坊主の除れたフランスのセーラーの被る毛糸帽子。印度の何とか称する貴族で、デッキパッセンジャーとして、アメリカに哲学を研究に行くと云う、青年に貰った、ゴンドラの形と金色を持った、私の足に合わない靴。刃のない安全剃刀。ブリキのように固くなったオバーオールが、三着。
「畜生! どこへ俺は行こうってんだ」
樫の盆見たいな顔を持った、セコンドメイトは、私と並んで、少し後れようと試みながら歩いていた。
「ヘッ、俺より一足だって先にゃ行かねえや。後ろ頭か、首筋に寒気でもするんかい」
私は又、実際、セコンドメイトが、私の眼の前に、眼の横ではいけない、眼の前に、
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