(土瓶出せ)と怒鳴る。
 (差入れのある者は報知木を出せ)
 ――ないものは涎を出せ――と、私は怒鳴りかえす。
 糞、小便は、長さ五寸、幅二寸五分位の穴から、巌丈な花崗岩を透して、おかわに垂れる。
 監獄で私達を保護するものは、私達を放り込んだ人間以外にはないんだ。そこの様子はトルコの宮廷以上だ。
 私の入ってる間に、一人首を吊《つ》って死んだ。
 監獄に放り込まれるような、社会運動をしてるのは、陽気なことじゃないんです。
 ヘイ。
 私は、どちらかと言えば、元気な方ですがね。いつも景気のいい気持ばかりでもないんです。
 ヘイ。
 監獄がどの位、いけすかねえところか。
 ちょうど私と同志十一人と放り込んだ。その密告をやった奴を、公判廷で私が蹴飛ばした時のこった。検事が保釈をとり消す、と言ってると、弁護士から聞かされた時だ。
 ――俺はとんでもねえことをやったわい。と私は後悔したもんだ。私にとっては、スパイを蹴飛ばしたのは悪くはないんだが、監獄にまたぞろ一月を経たぬ中、放り込まれることが善くないんだ。
 いいと思うことでも、余り生一本にやるのは考えものだ。損得を考えられなくなるまで追いつ
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