牢獄の半日
葉山嘉樹
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)時化《しけ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+條」、41−13]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)しめた/\
×:伏せ字
(例)××することを
−−
一
――一九二三年、九月一日、私は名古屋刑務所に入っていた。
監獄の昼飯は早い。十一時には、もう舌なめずりをして、きまり切って監獄の飯の少ないことを、心の底でしみじみ情けなく感じている時分だ。
私はその日の日記にこう書いている。
――昨夜、かなり時化《しけ》た。夜中に蚊帳戸から、雨が吹き込んだので硝子戸を閉めた。朝になると、畑で秋の虫がしめた/\と鳴いていた。全く秋々して来た。夏中一つも実らなかった南瓜が、その発育不十分な、他の十分の一もないような小さな葉を、青々と茂らせて、それにふさわしい朝顔位の花をたくさんつけて、せい一杯の努力をしている。もう九月だのに。種の保存本能
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