!――
 私は高い窓の鉄棒に掴まりながら、何とも言えない気持で南瓜畑を眺めていた。
 小さな、駄目に決まり切っているあの南瓜でも私達に較べると実に羨しい。
 マルクスに依ると、風力が誰に属すべきであるか、という問題が、昔どこかの国で、学者たちに依って真面目に論議されたそうだ。私は、光線は誰に属すべきものかという問題の方が、監獄にあっては、現在でも適切な命題と考える。
 小さな葉、可愛らしい花、それは朝日を一面に受けて輝きわたっているではないか。
 総べてのものは、よりよく生きようとする。ブルジョア、プロレタリア――
 私はプロレタリアとして、よりよく生きるために、ないしはプロレタリアを失くするための運動のために、牢獄にある。
 風と、光とは私から奪われている。
 いつも空腹である。
 顔は監獄色と称する土色である。
 心は真紅の焔を吐く。

 昼過――監獄の飯は早いのだ――強震あり。全被告、声を合せ、涙を垂れて、開扉を頼んだが、看守はいつも頻繁に巡るのに、今は更に姿を見せない。私は扉に打つかった。私はまた体を一つのハンマーの如くにして、隣房との境の板壁に打つかった。私は死にたくなかった
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