のだ。死ぬのなら、重たい屋根に押しつぶされる前に、扉と討死しようと考えた。
私は怒号した。ハンマーの如く打つかった。両足を揃えて、板壁を蹴った。私の体は投げ倒された。板壁は断末魔の胸のように震え戦《おのの》いた。その間にも私は、寸刻も早く看守が来て、――なぜ乱暴するか――と咎《とが》めるのを待った。が、誰も来なかった。
私はヘトヘトになって板壁を蹴っている時に、房と房との天井際の板壁の間に、嵌《は》め込まれてある電球を遮《さえぎ》るための板硝子が落ちて来た。私は左の足でそれを蹴上げた。足の甲からはさッと鮮血が迸《ほとばし》った。
――占めた!――
私は鮮血の滴る足を、食事窓から報知木の代りに突き出した。そしてそれを振った。これも効力がなかった。血は冷たい叩きの上へ振り落とされた。
私は誰も来ないのに、そういつまでも、血の出る足を振り廻している訳にも行かなかった。止むなく足を引っ込めた。そして傷口を水で洗った。溝の中にいる虫のような、白い神経が見えた。骨も見えた。何しろ硝子板を粉々に蹴飛ばしたんだから、砕屑でも入ってたら大変だ。そこで私は丁嚀《ていねい》に傷口を拡げて、水で奇麗
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