に洗った。手拭で力委せに縛った。
応急手当が終ると、――私は船乗りだったから、負傷に対する応急手当は馴れていた――今度は、鉄窓から、小さな南瓜畑を越して、もう一つ煉瓦塀を越して、監獄の事務所に向って弾劾演説を始めた。
――俺たちは、被告だが死刑囚じゃない、俺たちの刑の最大限度は二ヶ年だ。それもまだ決定されているんじゃない。よしんば死刑になるかも分らない犯罪にしても、判決の下るまでは、天災を口実として死刑にすることは、はなはだ以て怪《け》しからん。――
という風なことを怒鳴っていると、塀の向うから、そうだ、そうだ、と怒鳴りかえすものがあった。
――占めた――と私はふたたび考えた。
あらゆる監房からは、元気のいい声や、既に嗄《しゃが》れた声や、中にはまったく泣声でもって、常人が監獄以外では聞くことのできない感じを、声の爆弾として打ち放った。
これ等の声の雑踏の中に、赤煉瓦を越えて向うの側から、一つの演説が始められた。
――諸君、善良なる諸君、われわれは今、刑務所当局に対して交渉中である! 同志諸君の貴重なる生命が、腐敗した罐《かん》詰の内部に、死を待つために故意に幽閉されてあ
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