騒いでいる。監獄も始末がつかなくなったんだ。たしかに出さなかったことは監獄の失敗だった。そのために、あんなに騒がれても、どうもよくしないんだ。
 やがて医者が来た。
 監房の扉を開けた。私は飛び出してやろうかと考えたが止めた。足が工合が悪いんだ。
 医者は、私の監房に腰を下した。結えてある手拭を除りながら、
 ――どうしたんだ。
 ――傷をしたんだよ。
 ――そりゃ分ってるさ。だがどうしてやったかと訊いてるんだ。
 ――君たちが逃げてる間の出来事なんだ。
 ――逃げた間とは。
 ――避難したことさ。
 ――その間にどうしてさ。
 ――監房が、硝子を俺の足に打っ衝つけたんだよ。
 ――硝子なんかどうして入れといたんだ。
 ――そりゃお前の方の勝手で入れたんじゃないか。
 ――……
 医者は傷口に、過酸化水素を落とした。白い泡が立った。
 ――ああ、電灯の。
 漸く奴には分ったんだ。
 ――あれが落ちるほど揺ったかなあ。
 医者は感に堪えた風に言って、足の手当をした。
 医者が足の手当をし始めると、私は何だか大変淋しくなった。心細くなった。
 朝は起床(チキショウ)と言って起こされる。
 
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