められた奴の中で、性分を持った奴がやるだけのもんだ。
 監獄に放り込まれる。この事自体からして、余り褒めた気持のいい話じゃない。そこへ持って来て、子供二人と老母と嬶《かかあ》とこれだけの人間が、私を、この私を一本の杖にして縋《すが》ってるんです。
 手負い猪です。
 医者が手当をしてくれると、私は面接所に行った。わざと、下駄を叩きへ打っけるんだ。共犯は喜ぶ。私も嬉しい。
 ――しっかりやろうぜ。
 ――痛快だね。
 なんて言って眼と顔を見合せます。相手は眼より外のところは見えません。眼も一つだけです。
 命がけの時に、痛快だなんてのは、まったく沙汰の限りです。常識を外れちゃいけない。ところが、
 ――理屈はそれでもいいかしれないが、監獄じゃ理屈は通らないぜ。オイ、――なんです。
 監獄で考えるほど、もちろん、世の中は、いいものでもないし、また娑婆《しゃば》へ出て考えるほど、もちろん、監獄は「楽に食えていいところ」でもない。一口に言えば、社会という監獄の中の、刑務所という小さい監獄です。

     二

 私は面接室へ行った。
 ブリキ屋の山田君と、嬶と、子供とが来ていた。
 ――地震
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