てるじゃないか。
――よろしい。あらかじめ無事に収まる地震の分ってる奴等が、慌てて逃げ出す必要があって、生命が危険だと案じる俺達が、密閉されてる必要の、そのわけを聞こうじゃないか。
――誰が遁げ出したんだ。
――手前等、皆だ。
――誰がそれを見た?
――ハハハハ。
私は笑い出した。涙は雨洩のように私の頬を伝い始めた。私は首から上が火の塊になったように感じた。憤怒!
私は傷《きずつ》いた足で、看守長の睾丸を全身の力を罩《こ》めて蹴上げた。が、食事窓がそれを妨げた。足は膝から先が飛び上がっただけで、看守のズボンに微に触れただけだった。
――何をする。
――扉を開けろ!
――必要がない。
――必要を知らせてやろう。
――覚えてろ!
――忘れろったって忘られるかい。鯰野郎! 出直せ!
――……
私は顔中を眼にして、彼奴《きゃつ》を睨《にら》んだ。
看守長は慌《あわ》てて出て行った。
私は足を出したまま、上体を仰向けに投げ出した。右の足は覗き窓のところに宛てて。
涙は一度堰を切ると、とても止るものじゃない。私はみっともないほど顔中が涙で濡れてしまった。
私が
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