思う。引っ張られる時より引っ張られてからは、どんなに楽なものか。
私は窓から、外を眺めて絶えず声帯の運動をやっていた。それは震動が止んでから三時間も経った午後の三時頃であった。
――オイ――と、扉の方から呼ぶ。
――何だ! 私は答える。
――暴れちゃいかんじゃないか。
――馬鹿野郎! 暴れて悪けりゃなぜ外へ出さないんだ!
――出す必要がないから出さないんだ。
――なぜ必要がないんだ。
――この通り何でもないってことが分っているから出さないんだ。
――手前は何だ? 鯰《なまず》か、それとも大森博士か、一体手前は何だ。
――俺は看守長だ。
――面白い。
私はそこで窓から扉の方へ行って、赤く染った手拭で巻いた足を、食事窓から突き出した。
――手前は看守長だと言うんなら、手前は言った言葉に対して責任を持つだろうな。
――もちろんだ。
――手前は地震が何のことなく無事に終るということが、あらかじめ分ってたと言ったな。
――言ったよ。
――手前は地震学を誰から教わった。鯰からか! それとも発明したのか。
――そんなことは言う必要はないじゃないか。ただ事実が証明し
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