っ端から使い「捨て」られる。
 暗い、暑い、息詰る、臭い、ムズムズする、悪ガスと、黴菌に充ちた、水夫室だった。
 病人は、彼のベッドから転げ落ちた。
 彼は「酔っ払って」いた。
 彼の腹の中では、百パーセントのアルコールよりも、「ききめ」のある、コレラ菌が暴れ廻っていた。
 全速力の汽車が向う向いて走り去るように、彼はズンズン細くなった。
 ベッドから、食器棚から、凸凹した床から、そこら中を、のたうち廻った。その後には、蝸牛《かたつむり》が這いまわった後のように、彼の内臓から吐き出された、糊のような汚物が振り撒かれた。
 彼は、自分から動く火吹き達磨のように、のたうちまわった挙句、船首の三角形をした、倉庫へ降りる格子床(グレイチン)の上へ行きついた。そして静かになった。
 暗くて、暑くて、不潔な、水夫室は、彼が「静か」になったにも拘らず、何かが、眼に見えない何かが、滅茶苦茶に暴れまくっていた。
 第三金時丸は、貪慾な後家の金貸婆が不当に儲けたように、しこたま儲けて、その歩みを続けた。
 海は、どろどろした青い油のようだった。
 風は、地獄からも吹いて来なかった。
 デッキでは、セーラー
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