たのを塗って歩いた。
 だが、何のために、デッキに手入れをするか?
 デッキに手入れをするか? よりも、第三金時丸に最も大切なことは、そのサイドを修理することではなかったか。錨を巻き上げる時、彼女の梅毒にかかった鼻は、いつでも穴があくではないか。その穴には、亜鉛化軟膏に似たセメントが填められる。
 だが、未だ重要なることはなかったか?
 それは、飲料水タンクを修理することだ。
 若し、彼女が、長い航海をしようとでも考えるなら、終いには、船員たちは塩水を飲まなければならない。
 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海水が飲料水の部分に浸透して来るからだった。だから長い間には、タンクの水は些も減らない代りに、塩水を飲まねばならなくなるんだ。
 セイラーが、乗船する時には、厳密な体格検査がある。が、船が出帆する時には、何にもない。
 船のために、又はメーツの使い方のために、労働者たちが、病気になっても、その責任は船にはない。それは全部、「そんな体を持ち合せた労働者が、だらしがない」からだ。
 労働者たちは、その船を動かす蒸汽のようなものだ。片
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