****そうでもない。何のこたあない、ストーヴの中のカステラ見たいな、熱さには、ヨウリスだって持たないんだ。
で、水夫たちは、珍らしくもなく、彼を水夫室に担ぎ込んだ。
そして造作もなく、彼の、南京虫だらけの巣へ投り込んだ。
一々そんなことに構っちゃいられないんだ。それに、病人は、水の中から摘み出されたゴム鞠のように、口と尻とから、夥しく、出した。それは、デッキへ洩れると、直ぐにカラカラに、出来の悪い浅草海苔のようにコビリついてしまった。
「チェッ、電気ブランでも飲んで来やがったんだぜ。間抜け奴!」
「当り前よ。当り前で飲んでて酔える訳はねえや。強い奴を腹ん中へ入れといて、上下から焙りゃこそ、あの位に酔っ払えるんじゃねえか」
「うまくやってやがらあ、奴あ、明日は俺達より十倍も元気にならあ」
「何でも構わねえ。たった一日俺もグッスリ眠りてえや」
彼等は足駄を履いて、木片に腰を下して、水の流れる手拭を頭に載せて、その上に帽子を被って、そして、団扇太鼓と同じ調子をとりながら、第三金時丸の厚い、腐った、面の皮を引ん剥いた。
錆のとれた後は、一人の水夫が、コールターと、セメントの混ぜ合せ
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