が減って、グニャグニャになっていた。
おもては、船特有の臭気の外に、も一つ「安田」の臭いが混ざって、息詰らせていた。
水夫達は、死体の周囲に黙って立っていた。そして時々、耳から耳へ、何か囁かれた。
コーターマスターは、ボースンの耳へ口をつけた。
「死んだのかい」
「死んだらしい」
「どうしたんだい」
「やけに呷ったらしいんだ」
「フーム」
「………………」
「で、水葬はいつかい」
「一運に一度訊いて見よう」
「酒が、わるかったんだね」
「ウム、どうもはっきり分らねえ。悪い病気じゃないといいが……」
明日、水葬する、と云うことに決った。
安田は、水夫たちの手に依って、彼のベッドへ横たえられた。
大豆粕のように青ざめていた。
彼の死に顔は、安らかに見えた。そして、こう云ってるように見えた。
「もう、どんな者にも搾られはしない」
これ以上搾取されることが厭になった、と云う訳でもあるまいが、安田の死体が、未だ海の中へ辷り込まない、その夜、一人のセイラーと、一人の火夫とが、「又酔っ払った」
第三金時丸は、沈没する時のように、恐怖に包まれた。
「コレラだ」と云うことが分ったのだ
前へ
次へ
全20ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング