。
船長、一運の二人が、おもてへ来て、「酔っ払って、管を巻いてる」患者を見た。
二人の士官が、ともへ帰ると、ボースンとナンバンとが呼ばれた。
彼等は行った。
船長は、横柄に収まりかえっていられる筈の、船長室にはいなくて、サロンデッキにいた。
ボースンとナンバンとが、サロンデッキに現れるや否や、彼は遠方から呶鳴った。
「フォア、ピーク(おもての空気室――船の云わば浮嚢――)のガットを開けろ。そして、死人と、病人とを中へ入れろ。コレラだ! それから、病人の食事は、ガットから抛り込むことにするんだ。それから、おもての者は、今日からともに来ることはならない。それから、少しでも吐いたり、下したりする者があったら、皆フォアピークへ入れるんだ。それから。エー、それから、あ、それでよろしい」
船長は、黴菌を殺すために、――彼はそう考えた――高価な、マニラで買い込んだ許りの葉巻を、尻から脂の出るほどふかしながら、命令した。
ボースンと、ナンバンは引き取った。
フォアピークは、水火夫室の下の倉庫の、も一つ下にあった。
その中は、梁や、柱や、キールやでゴミゴミしていた。そこは、印度の靴の爪
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