。奴あ死んでるぜ」
 彼は監獄から出たての放免囚見たいに、青くなって云った。
「何だって! 死んだ? どいつが死んだ?」
「冗談じゃないぜ。ボースン。安田が死んでるんだぜ」
「死んだ程、俺も酔っ払って見てえや、放っとけ! それとも心配なら、頭から水でも打っかけとけ!」
「ボースン! ボースン! そうかも知れねえが、一寸行って見てやって呉れよ。確に死んでる! そしてもう臭くなってるんだぜ」
「馬鹿野郎! 酔っ払ってへど吐きゃ、臭いに極ってら。二時間や三時間で、死んで臭くなりゃ、酒あ一日で出来らあ。ふざけるない。あほだら経奴!」
 ボースンは、からかわれていると思って、遂々憤り出してしまった。
「酔っ払ったって死ぬことがあるじゃないか! ボースン! 安田だって仲間だぜ! 不人情なことを云うと承知しねえぞ、ボースン、ボースンと立てときゃ、いやに親方振りやがって、そんなボーイ長たあ、ボーイ長が異うぞ! 此野郎、行って見ろったら行って見ろ!」
 見習は、六尺位の仁王様のように怒った。
「ほんとかい」
「ほんとだとも」
 水夫たちは、ボースンと共に、カンカン・ハマーを放り出したまま、おもてへ駆け込
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