彼は、ロープに蹴つまずいた。
「畜生! 出鱈目にロープなんぞ抛り出しやがって」
彼は叱言を独りで云いながら、ロープの上へ乗っかった。
ロープ、捲かれたロープは、………
どうもロープらしくなかった。
「何だ!」
水夫見習は、も一度踏みつけて見た。
彼は飛び下りた。
躯を直角に曲げて、耳をおっ立てて、彼は「グニャグニャしたロープ」を、闇の中に求めた。
見習は、腐ったロープのような、仲間を見た。
「よせやい! おどかしやがって。どうしたってんだい」
ロープは腐っていた。
「オイ、起きろよ。踏み殺されちゃうぜ。いくら暑いからって、そんな処へもぐり込む奴があるもんかい。オイ」
と云いながら、彼は、ロープを揺ぶった。
が、彼は豆粕のように動かなかった。
見習は、病人の額に手を当てた。
死人は、もう冷たくなりかけていた。
見習は、いきなり駆け出した。
――俺が踏み殺したんじゃあるまいか? 一度俺は踏みつけて見たぞ! 両足でドンと。――
彼は、恐しい夢でも見てるような、無気味な気持に囚われながら、追っかけられながら、デッキのボースンの処へ駆けつけた。
「駄目だ。ボースン
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