。体が寒く凍えて来た。私はカジカンだ手で竿を畳み、子供たちの方へ堤の上を歩いて行つた。
兄妹は五尺にも足らぬ胡桃の木の下に、二尺角位に乾し草の屋根を葺いて、その下に雫で背中を濡らしながら、木の幹を抱き、向き合つて跼んでゐた。
「竿はどこへやつた?」
と、私が訊くと、
「ほら、そこにあるよ」
と、上の子が出て来た。
「ああ、分つた、分つた」
私は子供の竿を抜きにかかつたが、元の方の二本が固くて抜けなかつた。
「これは抜けないや、濡らしたから緊つちやつた。お前担いでおいでよ」
「うん」
「ほら、こんなに釣れたよ」
魚籠を解いて腰から外し、子等に持たせた。魚の形が割合に大きかつたので、数の割合ひに目方は重かつた。
暗い闇の中で、魚の腹が白く光つてゐた。
「サア帰らう。寒かつたかい」
私は「腹が空つたらう」と云ひかけて口をつぐんだ。
「ちつとも濡れなかつたよ。お父さん兄さんが小屋を拵らへてくれたから。ねえ、兄さん」
「いつ小屋を葺くことなんか覚えたんだい、お前は?」
「戦争ごつこの時にやるからね、もつと大きなのを葺くんだよ。炭俵なんかでね」
「さうかい。サア帰らう」
私たちは暗
前へ
次へ
全15ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング