供等に解る訳もなかつた。その両親の私たちにも解らなかつたから。
二
雨が強くなつて来た。
自分の持つてゐる釣竿は未だ見えた。が、餌箱の中の餌の「チラ」がもう見えなくなつた。釣針も見えなくなつた。ピクッとかかつたので糸を上げても、どこに魚がかかつてゐるのかも見えなくなつた。
もう、釣りも駄目になつた。
私は、「親子心中」をする人たちの、その直前の心理を考へてゐたことに気がついた。
足の下には、日本の三大急流の一つが、セセラギ流れてゐた。減水してゐたので、豪宕たる感じはなかつた。が、それでも人間の十人や百人呑んだところで、慌てると云ふ風な河ではなかつた。
暗い中に流してゐたので、鉤が木工沈床の鉄筋か玉石の間か、流木かに引つかかつてとれなくなつた。
首筋には雨が伝はつて来た。
釣竿を寄せ、竿頭からテグスを掴むと、私は力まかせに引つ張つた。テグスは竿頭から三分の一位の処で切れたことが、手さぐりで分つた。
「サア、帰らうぜ」
と、私は子供たちに声をかけた。
「帰るの、帰らうねえ」
と、子供たちは下流から声を合せた。
だんだん強く降つて来た雨で、私たちは濡れてゐた
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