くなつた河の堤防を、下流に向つた。
男の子は先頭に立つた。女の児は私の後ろになつた。
コンクリートの橋があつて、そこで県道に出て、そこから私たちの家まで、約一里あつた。橋の袂に小屋があつた。橋を作る時に拵らへたセメント置場か何かのバラックである。
そこで上の子は、私たちを待つてゐた。
私は下の子の来るのを、上の子とそこで黙つて待つてゐた。
どう云ふものか、ふだんお喋舌りの子等がその夜は黙り込んでゐた。
無邪気な、詰らない疑問が飛び出して、私を煩さがらさなかつた。
――父ちゃんは考へるがいい。――
とでも、子等は思つてゐたのだらうか。
三人、一緒になつたので、
「お前たちはお父さんの先きにお歩き」
さう云つて、私たちは県道を歩き始めた。
県道は、電話線の埋設工事で掘り起されてあつた。いつも坦々たる道路なのに、その日は掘り起した泥と雨との為にぬかつてゐた。
その悪路を子等は驚く程、足早に歩いた。
暗闇の中で、私は子供たちの姿を見失つてしまつた。が、長い間、さうだ三十分位の間も、私は子等の先きに立つた姿を「見失つた」と云ふことに気がつかなかつた。
長い間、帰り途の
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