くなつた河の堤防を、下流に向つた。
 男の子は先頭に立つた。女の児は私の後ろになつた。
 コンクリートの橋があつて、そこで県道に出て、そこから私たちの家まで、約一里あつた。橋の袂に小屋があつた。橋を作る時に拵らへたセメント置場か何かのバラックである。
 そこで上の子は、私たちを待つてゐた。
 私は下の子の来るのを、上の子とそこで黙つて待つてゐた。
 どう云ふものか、ふだんお喋舌りの子等がその夜は黙り込んでゐた。
 無邪気な、詰らない疑問が飛び出して、私を煩さがらさなかつた。
 ――父ちゃんは考へるがいい。――
 とでも、子等は思つてゐたのだらうか。
 三人、一緒になつたので、
「お前たちはお父さんの先きにお歩き」
 さう云つて、私たちは県道を歩き始めた。
 県道は、電話線の埋設工事で掘り起されてあつた。いつも坦々たる道路なのに、その日は掘り起した泥と雨との為にぬかつてゐた。
 その悪路を子等は驚く程、足早に歩いた。
 暗闇の中で、私は子供たちの姿を見失つてしまつた。が、長い間、さうだ三十分位の間も、私は子等の先きに立つた姿を「見失つた」と云ふことに気がつかなかつた。
 長い間、帰り途の
前へ 次へ
全15ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング