、非常線を張り且つ(調べられる)か?
 家族の者とても、取調べを受けない訳には行かなかった。片っ端から母を異にする兄弟姉妹の間に、何かありはしないか? 最近の犯罪傾向が暗示する、骨肉相殺がないか?
 人々は信ずる処を失ってしまった。滅茶苦茶であった。虚無時代であった。恐怖時代であった。
 棍棒は、剣よりもピストルよりも怖れられた。
 生活は、農民の側では飢饉であった。検挙に次ぐ検挙であった。だが、赤痢ででもあるように、いくら掃除しても未だ何か気持の悪いものが後に残った。
「こんな調子だと、善良な人民を監獄に入れて、罪人共を外に出さなけりゃ、取締りの法がつかない」と、「天神様」たちは思わない訳には行かなかった。
 だが、青年団、消防組の応援による、県警察部の活動も、足跡ほどの証拠をも上げることが出来なかった。
 富豪であり、大地主であり、県政界の大立物である本田氏の、頭蓋骨にひびが入ったと云う、大きな事実に対して、証拠は夢であった。全で殴ったのは現実の誰かではなくて、人魂ででもあるようだった。
 生霊や死霊に憑かれることは、昔からの云い慣わしであった。そして、怨霊のために、一家が死滅した
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