乳色の靄
葉山嘉樹
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)眩《めまぐる》しい
−−
四十年来の暑さだ、と、中央気象台では発表した。四十年に一度の暑さの中を政界の巨星連が右往左往した。
スペインや、イタリーでは、ナポレオンの方を向いて、政界が退進した。
赤石山の、てっぺんへ、寝台へ寝たまま持ち上げられた、胃袋の形をしたフェットがあった。
時代は賑かであった。新聞は眩《めまぐる》しいほど、それ等の事を並べたてた。
それは、富士山の頂上を、ケシ飛んで行く雲の行き来であった。
麓の方、巷や、農村では、四十年来の暑さの中に、人々は死んだり、殺したり、殺されたりした。
空気はムンムンして、人々は天ぷらの油煙を吸い込んでいた。
一方には、一方の事は、全で無関係であった。勝手に雲が飛び、勝手に油虫どもが這い廻っているようであった。
人々は、眼を上げて、世界の出来事を見ると、地獄と極楽との絵を重ねて見るような、混沌さを覚えた。が、眼を、自分の生活に向けると、何しろ暑くて、生活が苦しくて、やり切れなかった。
その、四十年目の暑さに、地球がうだって、鮒共が総て
次へ
全23ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング