目を白くして浮び上ったと思うことは、それは間違いであった。どこにでも避暑地と云うものがあった。日本には軽井沢があり、印度にはダージーリンがあり、アメリカには、ロッキーがあった。
「人間どもは、何だって、暑い暑いとぬかしながら、暑い処にコビリついているんだ。みんな足をとられてやがる。女房子に足をとられたり、ガツガツした胃袋に足をとられたり、そう云う、俺だって、ざまあねえや、今まで足をとられていたじゃねえか。俺のは、鎖がひっからまって! 動きがとれなかったんだ。そこへ持って来て、手を縛って、梁へ吊しやがったな。おまけに竹刀でバシバシと、すこたんを遠慮なしに打ん殴りやがったっけ。ああなると意気地のねえもんだて、息がつけねえんだからな。フー、だが、全く暑いよ」
彼は、待合室から、駅前の広場を眺めた。
陽光がやけに鋭く、砂利を焙った。その上を自動車や、電車や、人間などが、焙烙《ほうろく》の上の黒豆のように、パチパチと転げ廻った。
「堪らねえなあ」
彼は、窓から外を見続けていた。
「キョロキョロしちゃいけない。後ろ頭だけなら、誰って怪しみはしないさ。キョロキョロしてはいけねえ。眼が打っ突る!
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