、その子供である、二人の息子と三人の娘とは、何かを待つような気持を、どうしても追っ払うことが出来なかった。
 当主は、寝ている処を、いきなり丸太ん棒、それも樫の木の、潜り門用の閂でドサッとやられたので、遺言を書こうにも書くまいにも、眼の覚める暇がなかったのであった。
 で、家族のものは、泣きながら食卓の前に坐らされている、腹の空いた子供のような気持を、抱かない訳には行かなかった。
 陰気であった。が、何だか険悪であった。線香をいぶすのにも、お経を読むのにも早過ぎた。第一、室が広すぎた。余り片附きすぎてとりつき端がなかった。退屈凌ぎに飲食することは、前祝いのようで都合が悪かった。
 不思議な事には、子供たちは誰一人、眼を泣きはらしていなかった。
 本田富次郎の頭脳が、兎に角物を言う事の出来た間中は、彼は此地方切っての辣腕家であった。
 他の地主たちも、彼に倣って立入禁止を断行した。そして、累卵の危きにある(地主の権利)を辛うじて護る事が出来た。小作人どもは、ワイワイ云ってるだけで、何とも手の下しようがなかった。大抵目ぼしい、小作人組合の主だった、(ならず者ども)は、残らず町の刑務所へ抛り
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