職業に携っている、その人間の一年では絶対にないのであった。その人は、社会的に尊敬され、家庭的に幸福でありながら、他の人の一生を棒に振ることも出来た。彼には三百六十五日の生活がある! 彼には、三百六十五日の死がある。――
今度は、三ヵ月は娑婆で暮したいな、と思うと、凡そ百日間は、彼には娑婆の風が吹いた。家の構えで、その家がどんな暮し向きであるかを知った。顔や、帯の締め工合で、そいつが何であるかを見て取った。
だが、あの不敵な少年は、全で解らなかった。
(あいつは、二つのメリケン袋の中に足を突っ込んでいた。輪になった帯の間から根性に似合わない優しい顔が眠っていた。何を考えているんだか、あの眼の光は俺には解らなかった。旦那衆のように冷たくは光らなかった。憤って許りいるような光でもなかった。涙を溜めてもいなかった。だが、俺を一度でおどかしやがった。フン、俺も大分焼が廻ったな。あんな小僧っ子の事で、何だ、グズグズ気をとられてるなんて、他事《ひとごと》じゃねえや、こちとらの事だ。間誤ついてると、細く短くなっちゃうぞ)
汽車が、速度をゆるめた。彼は、眠った風をして、プラットフォームに眼を配った
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