っ子の癖してやがって!)それでいて、その小僧っ子の見てい、感じてい、思ってい、言う言葉が、(親位な俺に解らねえなんて)
 彼は車室を見廻した。人は稀であった。彼の後から跟いて入って来た者もなかった。
(どうにも疑もかけられなかった。危え瀬戸際だったよ、だが、小癪な小僧だよ。あいつは)
 彼と、彼を愕かした少年との間には、言葉の異う二つの国民位の、距離があった。彼には、その少年は、云わば怪物であった。警察や、町などで、彼の知っていた少年とは似てもつかない、妙な訳の分らないものであった。それは、何か知ら追っかけられるような、切迫した感じで彼をつっ突いた。彼は、その本能的な、その上、いつまでも人生の裏道を通らねばならないことから来る、鋭い直感で、大抵一切のことを了解した。今度はどの位だな、と思っていると、大抵刑期はそれより一年とは違わなかった。――一年の人間の生活は短くない。だが、無頼漢共を量る時には、一年の概念的な数字に過ぎなかった。その一年の間に、人間の生活が含まれていると云う事は考えられなかった。それは自分には関係のない一年であった。その一年の間に、他人の生活の何千年かを蛹にしてしまう
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