え処に乗り込んだもんじゃねえか。いけねえ)
「そりゃ又どう云う訳でかい?」
「訳なんぞあるもんかい。俺たちと話ししてりゃ片っ端から跟けられるに決まってらあね」
「だから、お前は一体何だ、と聞いてるんだよ」
「俺かい? 俺は労働者だよ」
「労働者? じゃあ堅気だね? それに又何だって跟けられてるんだい?」
「労働争議をやってるからさ。食えねえ兄弟たちが闘ってるんだよ」
「フーン。俺にゃ分らねえよ。だが、お前と口を利いてると、ほんとに危なそうだから俺は向うへ行くよ。そらバスケットを取ってくんなよ」
「ほら。気をつけなよ」
「お前の方が、気をつけろよ。飛んでもねえ話だ」
 彼は、針でも踏みつけたように驚いた。
(気をつけろってやがる。奴は俺を見抜いてやがるんだ。物騒な話だ)
 彼はバスケットを提げて、食堂車を抜けて二等車に入った。
 二等車では、誰も坐っていない座席に向って、煽風機が熱くなって唸っていた。
 彼は煽風機の風下に腰を下した。空気と座席とが、そこには十分にあった。
 焙られるような苦熱からは解放されたが、見当のつかない小僧は、彼に大きな衝撃を与えた。
(あの小僧奴、俺の子供位に雛
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