。プラットフォームは、彼を再び絶望に近い恐愕に投げ込んだ。
白い制服、又は私服の警官が四五十人もそこに網を張っていた。
汽車はピタッと止った。
だるい、ものうい、眠い、真夜中のうだるような暑さの中に、それと似てもつかない渦巻が起った。警官が、十数輛の列車に、一時に飛び込んで来た。
彼は全身に悪寒を覚えた。
(畜生! 大袈裟に来やがったな。よし、こうなりゃやけくそだ)
恐愕の悪寒が、激怒の緊張に変った。匕首《あいくち》が彼の懐で蛇のように鎌首を擡げた。が、彼の姿は、すっかり眠りほうけているように見えた。
制服、私服の警官隊が四人、前後からドカドカッと入って来た。便所の扉を開いた。洗面所を覗いた。が、そこには誰も居なかった。
「この車にゃ居ない!」
「これは二等だ、三等に行け!」
「発車まで出口を見張ってろ!」
二人の制服巡査が、両方の乗降口に残って他のは出て行った。
プラットフォームは、混乱した。叫び声、殴る響、蹴る音が、仄暗いプラットフォームの上に拡げられた。
彼は、懐の匕首から未だ手を離さなかった。そして、両方の巡査に注意しながらも、フォームを見た。
改札口でなし
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