ない。俺だってバスケットを坐らせといて立っていたくねえや」
「チョッ、喧嘩にもならねえや」
「当り前さ」
 少年は眼を開いた。そして彼をレンズにでも収めるように、一瞬にしてとり入れた。
「喧嘩にゃならねえよ。だが、お前なんか向うの二等車に行けよ。その方が楽に寝られるぜ。寒くもねえのに羽織なんか着てる位だから。その羽織だって、十円位はかかるだろう。それよりゃ、二等に行って、少しでも三等を楽にしろよ。此三等を見ろよ。塵溜だってこれよりゃ隙があらあ。腐らねえで行く先まで着きゃ不思譲な位だ。俺たちゃ、明日から忙しいから、汽車ん中で寝て行き度えんだよ」
「どこへ行くんだい?」
「お前はスパイかい?」
「え?」
「分らねえか、警察の旦那かって聞いてるんだよ」
 彼は喫驚《びっくり》すると同時に安心した。
(こいつあ、仲間かも知れねえぞ!)
「俺は商人だよ」
「そうかい? 何しろ、此車にゃスパイが二十人も乗ってるんだからな。俺はまたお前もそうかと思ったよ」
「どうしてだい?」
 だが彼は今度はびっくりした。
(おどかしやがる。二十人! 穏かじゃねえや。だが、どうして此小僧がそれを知っているんだ。どこ
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