、お前のかい?」
少年は眼を瞑ったまま、聞きかえした。
彼は度胆を抜かれた。てれかくしに袂から敷島を出して火をつけた。
(何てえ奴だ! 途方もねえ野郎だ。え、「じゃ、お前のかい?」ってやがる。それじゃ一体あのバスケットは、誰のものなんだい? 尤もそう云やあ、此小僧っ子の云う事がほんとには、ほんとなんだがな。それゃ、俺のものでもねえし、又此小僧っ子のでもねえんだ。だが、そいつを此小僧奴知ってやがるんだろうか。知ってなきゃそんな無茶苦茶な事が云える筈がなかろうじゃないか。え、都合によると、こりゃ危いかも知れねえぞ)
だが、彼はそこでへまを踏むわけには行かなかった。それが誰のものだろうが、そのバスケットは自分のものでなければ収拾する事が出来なかった。
「だって兄さん。そりゃ俺んだよ。踏んづけちゃ困るね」
「そんな大切なものなら、打っ捨《ちゃ》らかしとかなけゃいいじゃないか」
少年は眼を瞑ったまま、バスケットから足をとった。
生々しい眉間の傷のような月が、薄雲の間にひっかかっていた。汽車は驀然と闇を切り裂いて飛んだ。
「冗談云うない。俺だって一晩中立ち通したかねえからな」
「冗談云う
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