創立された。
 だいたい今まで中学が少な過ぎたために、県で立てたのが二つ、その当時、衆議院議員選挙の猛烈な競争があったが、一人の立候補が、石炭色の巨万の金を投じて、ほとんどありとあらゆる村に中学を寄付したその数が五つ。
 こんなわけで、今まで七人も一つ部屋にいた寄宿生が、一度に二人か三人かに減ってしまった。
 その一つの部屋に、深谷《ふかや》というのと、安岡《やすおか》と呼ばれる卒業期の五年生がいた。
 もちろん、部屋の窓の外は松林であった。松の梢《こずえ》を越して国分寺の五重の塔が、日の光、月の光に見渡された。
 人数に比べて部屋の数が多過ぎるので、寄宿舎は階上を自習室にあて、階下を寝室にあててあった。どちらも二十畳ほど敷ける木造西洋風に造ってあって、二人では、少々|淋《さび》しすぎた。が、深谷も安岡も、それを口に出して訴えるのには血気盛んに過ぎた。
 それどころではない、深谷はできることならば、その部屋に一人でいたかった。もし許すならばその中学の寄宿舎全体に、たった一人でいたかった。
 何かしら、人間ぎらいな、人を避け、一人で秘密を味わおうという気振《けぶ》りが深谷にあることは、安
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