本さえ、その薄闇《うすやみ》の中に見失うまいとするようにして進んだ。
やや柵の曲がった辺へ来ると、グラウンドではなく、街道を風のように飛んでゆく姿が見えた。
その風の姿は、一週間前、セコチャンが溺死《できし》した沼のほうへと飛んだ。
安岡は、自分が溺死しかけてでもいるような恐怖にとらわれ、戦慄《せんりつ》を覚えた。が、次の瞬間には無我夢中になって、フッ飛んだ。
道は沼に沿うて、蛇《へび》のように陰鬱《いんうつ》にうねっていた。その道の上を、生きた人魂《ひとだま》のように二人は飛んでいた。
沼の表は、曇った空を映して腐屍《ふし》の皮膚のように、重苦しく無気味に映って見えた。
やがて道は墓地の辺にまで、二人の姿を吹くように導いた。
墓地の入り口まで先頭の人影が来ると、吹き消したように消えてしまった。安岡は同時に路面へ倒れた。
墓地の松林の間には、白い旗や提灯《ちょうちん》が、巻かれもしないでブラッと下がっていた。新しいのや中古《ちゅうぶる》の卒塔婆《そとうば》などが、長い病人の臨終を思わせるように瘠《や》せた形相《ぎょうそう》で、立ち並んでいた。松の茂った葉と葉との間から、
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