ばかに相手になってこの暗い海へほんとにたたき込まれたら、全くそれ切りだってことは、十分に船長も知っていた。
 「三上、そう怒《おこ》るものじゃない。え、浜につけば、気に入るようにしてやるから怒らずに、一生懸命やってくれ、え」
 「着けば『わかる』んだね。よし来た」仙台はまた、ぼつぼつと櫓《ろ》を押し始めた。
 小倉は、おかしかった。「着けばわかる!」三上の野郎首を切られるのがわかるだろう、ばか野郎め! せっかくおもしろいところまで筋が運んだと思ったら「わかる」で済ましちまやがった。フ、これが「労働者」なんだ。だれにでも、たった一言できれいにだまされちまうんだ。これだから、人間の歴史がいつまでも[#「いつまでも」は筑摩版では「いつでも」]、歯がゆくて癪《しゃく》にさわってたまらないんだ。あ、わかる、わかる、全く一切がよくわかる。
 しかし全く、心細い「航海」ではあった。海はすぐその足の下でうなっていた。啀《いが》んでいた。そしてそのからだをやけに揺すぶっていた。
 三上と、小倉とは、その生活の大部分がそうであると同じに、今もただ機械的に働いているに過ぎなかった。けれども、彼らは、恐ろしく
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