まうじゃないか、どうしたんだい」
「船長! 引き潮だから、いくら押してもだめだ。港口に行きゃあ、また流れっちまうだけのもんだ。それよりゃ上げ潮を待った方がいいや」三上はまだ獲物のそばにでもいるように薄気味わるく、ぞんざいな言葉を使った。
「ばかなことをいうな! 夜が明けちまうじゃないか、しっかり押せ!」
「自分でやって見るといいや、これ以上おれたちの腕にゃ合わねえんだから」三上はいよいよ打《ぶ》っつけるようにいい切った。
「何だ! やらないというのか! よし! 覚えておれ!」船長も仕方がなかった。こんなまっ暗がりの海の上でけんかをすれば自分が負けにきまっているのだった。彼は明日《あす》を待つことにした。
「何だと! 覚えておれ? この野郎! 手前《てめえ》は何だって……今日《きょう》の暴化《しけ》がサンパン止めになってる事ぐらいを知らないか、この野郎、手前を海の中にたたき落とすのは造作ねえんだぞ、どこひょっとこめ!」三上は漕《こ》ぐ手を止めてしまった。
三上は、低能だといわれていた。彼にはいろんな発作的の行動があるのだ。船長は、それを知っていた。それでいじけ込んでしまった。
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