だ。おまけに、あいつの腕の五本ぶり、おれの腕はある、あいつを五人さげることが、おれは平気だ! だのに……」
獲物《えもの》のまわりにわざと遊びたわむれて、なかなか飛びつこうとせぬ狼《おおかみ》のように三上は、その考えのまわりをウロウロしていた。
小倉は同じような考えを別な方から嗅《か》いでいた。飢餓がある。疾病がある。不具がある。負傷がある。そしてそれらのすべてが死へ行く道になっている。彼はこの道をブルジョアによって、他の無数の労働者と一緒に追われている。それを追って来るのは少数だ。追われているのはそれらの幾千倍も幾万倍もあるのに、その多くの労働者の群れには、牙《きば》をむいて自分のあとを振り向こうとする、たった一人の仲間さえもないのだ。労働者は、塩にあったなめくじだ。それはわけなく溶けてしまうんだ。ただ一人の労働者、それが十人に一人、十万人に一人もないのだ。それで、それでこそ、人間は、大量生産的に**されうるのだ。人間は自分のためには死ねないんだ。人間は、命令を好むものだ。命令の下にはすべての人間が死にうるが、自分からは一人の人間も、よく自分を殺し得ないものだ。一人の人間が、生き
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