とは、その運命を、牢獄《ろうごく》内に朽ちしめるように決定された、無期徒刑囚のような神経になりおおせた彼らであっても、なし得ない辛抱であった。
 ことにそれは、この闇《やみ》の中に、ボンヤリすわって時々、「シッカリしないか」とだけ怒鳴る船長の、利己心からのみ起こった一切だ、という感じが、いつのまにか、闇が産みつけでもしたように、二人の胸の中に食い入っていたのであった。
 今は、二人の漕《こ》ぎ手は、その櫓に対しての意識の集中を断念して、船長と称する不可解な、そのあいまいな、暗黒な形相をしていて、サンパンの中にすわっている、この生物に対して、「なぜおれたちは、こんなに苦しまねばならないのだ」という考えの周囲をさまよい始めたのであった。
 それは、だれもみてもいないし、聞いてもいないし、感ずることもできない、全く暗黒[#「暗黒」は底本では「黒暗」と誤記]な闇の中であった。そこには、どんな叫び声をも一のみにする嵐《あらし》と潮の叫喚があった。そこには、何物をも洗い流すところの急流があった。そこには人間を骨ごと食ってしまう鱶《ふか》がいるのであった。
 「そして、あいつは、たった一人《ひとり》
前へ 次へ
全346ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング