かった。それはかわいた荒蓆《あらむしろ》のように、彼の神経を埃《ほこり》っぽく、もやもやさせた。
ボーイがコーヒーを持って来た。
「まだ、したくはできないか、ボースンを呼べ!」と彼は、ボーイに命じた。そして、ボーイに対しても腹を立てた。「チョッ! こんな気の抜けたコーヒーを持って来やがって、コーヒーの保存法も知らないんだ、やつらは」彼は、煮えつくようなコーヒーにのどをうるおした。
「ソーッと、出し抜けに、おれは帰らなきゃならん。自動車は家へ知れないくらいのところで、帰してしまわなくちゃ、そして……」船長は、絶えず妻にやきもちを焼いた。そして、彼も、それほど妻を愛してはいないことを、誇示するつもりで寄港地ごとに遊郭に行った。そこではよく、水夫と一つ女を買い当てたものだ!
それは、全くおもしろい、こっけいな、喜劇の一幕を演ずるのだが、今は、サンパンが用意されようとしている。
一五
水夫らは、ともの、三番のウインチに二人《ふたり》ついた。ボートデッキに二人、各《おのおの》のロープについた。そして波田は、サンパンに乗った。それをタラップまで回航するためであった。かわいそ
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