うに犬吠《いぬぼう》沖か、勝浦沖かで彼女は散歩を強制せられるのであった。
古今共に狒々《ひひ》が、出るためには、夜を選ぶのであった。そして、悲しむべきことは、わが万寿丸に岩見重太郎が乗り合わせていないことであった。十一時、サンパンは、その非常に危険な怒濤《どとう》の中におろされなければならなかった。二人《ふたり》の漕《こ》ぎ手が、水夫の中からつかみ出されなければならなかった。
この漕ぎ手に白羽の矢が立ったのは、鰹船《かつおぶね》で鍛え上げた三上と、舵取《かじと》りの小倉とであった。三上は低能であった。小倉はおとなしかった。白羽の矢は、岩見武勇伝の場合と違って、大抵この二人に、恒例として当たるのであった。
二人の漕ぎ手は、一里余の暗黒の海上を、サンパン止《ど》め――暴風雨にて港内通船危険につき港務課より一切の小舟通行を禁止する――の暴化《しけ》を冒して、船長を日本波止場まで、「秘密」に送りつけねばならぬのであった。
船長は、「秘密」で、上陸して、その家庭へ帰るのであった。そして、その翌朝、「秘密」に、ランチで本船へ帰って、それから、「公然」入港するという手順になっていたのである。
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