すから』と、一方で白水を引っぱりながら、一方で後明に、承知をした上、ご丁寧なお辞儀を一つしたんだ。
『へえ、何に、今の都合がつきゃあとはまた、まっ黒になってかせぎますから』と白水にいったんだ。
その事件があって後の白水は、会社側からはなはだしく忌みきらわれた。そして白水の馘首《かくしゅ》が事務員から、重役の問題にまで進んだんだ。
この家屋浸水事件後、僕と白水その他の多数の兄弟たちが、A工場に対して、N市における最初の大規模な応戦を試みて、全部が、見事に陣頭に倒れ、おまけに僕と白水とほかに四人の兄弟が、その争議のため、牢獄《ろうごく》の赤い煉瓦塀《れんがべい》をくぐることになったんだ。それは九月の末ごろであったろう。A工場の労働者たちは、切り株浸水事件の後に、白水が積善会の積立金の会計報告等が一切ないことを鳴らし、かつ工場[#「工場」は筑摩版では「工場法」]の扶助規則や未成年労働者使用等、規則違反が多いことなどを表面の理由として、資本家階級の間に、どんな策戦があるか探りを入れ始めたんだ。N市は地方色的に利己的なところであった。そのために争議も、一種の地方色を持っていたのだが、僕らは
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