目でにらんだんだ[#「にらんだんだ」は筑摩版では末尾の「んだ」なし]。工場へ五時に来てから、幾度も小便に行った。そのうちほんとうにしたかったのが幾度、あとは、とにかく場処を動きたかったからだ。倉庫番(工場の)のところまで何歩あるか、何秒かかるか、それだけをゆっくり歩くことを、なぜ職長はとがめるか、職長は労働者か、それとも何か、とそんなふうに愚の骨頂のようなことから、その他さまざまなことが、僕の頭を根限り追いまくった。
 そして僕には、僕が学生であった時代が恥ずかしくなった一時代が来た。僕はそれから、性格が一変したんだ。それまでは、僕は、ほとんどだれからも愛される質《たち》だったんだ。そして近づきやすい青年だった。ところが僕が、学生時代をのろい始めると共に、職工時代をものろい始めたんだ。つまり、その『恥ずべき学生のおれを、今の職工のおれたちが養っていたし、これからも養ってやらなきゃならないんだ』と、ちょうど僕が、この正体の知れない考えにとらわれた時に、一人《ひとり》の職工と知り合いになったんだ。
 『人間はなぜ働かねば食えないんだか知ってるか、お前』とそいつがいうんだ、僕はしばらく黙って
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